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月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

ワン・ウーマン・ショー ~甘い幻~

ガットギターをかき鳴らし、髪を振り乱す彼を見つめていた。ドレスの裾から伸びる脚と、まっすぐに伸ばした腕は、誰に向けていたのだろう。みんなは、彼と私を待ちわびてくれる。私たちの演奏のために、ここに足を運んでくれる。 彼が奏で、私が踊る。それだ…

俺たちのセレブレーション

「レオナルドに感謝だよ」と呟いた。ぼくの呟きは、草の根に吸い込まれていく。河川敷の芝生に座るぼくの目の前では、数世代前のテレビドラマに出てくるような大きくて赤い夕陽が、川面をキラキラと照らしていた。 「ダ・ヴィンチのことをレオナルドって呼ぶ…

東京デスティニー

田舎者に限って、覚えたての地名や道の名前をやたらと口に出したがる。いま目の前に座っている男もそうだ。口説きたい女なのか、惚れさせたい女なのか、こんな得体の知れないバーにやって来て、得意げに何かを話している。女を連れて行くなら、もっと気の利…

青春花道

卒業式の朝は、いつもより静かだ。節目というよそよそしさが、わたしをそうさせるのか。朝のニュースのアナウンサーは普段より小声でしゃべり、大通りを走り抜ける通勤の車も少しだけ速度を落としているようだ。青の絵の具が足りなくなって懸命に水で引き伸…

瞬く星の下で

いくらかの視界を残すための隙間以外、身体の全てを金属で覆った兜を外すと、そこには幼い頃と変わらない碧い瞳があった。幾日と続く戦場をくぐり抜けてきた彼の頬は、土埃ですすけている。右手に携えた槍の先端は、先の戦場で半分折れた。 「ふー」と、彼は…

カゲボウシ

「青春」ということばに、わたしは男の子を感じる。周りの友だちからは「なんで?」と言われた。青春に男も女もないでしょ、と。たしかにそうなんだけど、わたしはそのことばに、年頃の男の子が鏡の前でヘアワックスの使い方を練習したり、放課後に声を枯ら…

2012Spark

曇天のサーキットに、甲高いエンジン音がこだまする。一台、また一台。彼の乗ったマシンは、まだ現れない。それは彼にとって望ましいことではない。順位をひとつでも上げてゴールすること、それがチームにおいてのドライバーの役割だ。ほとんどそれだけと言…

ゆきのいろ

そのシロクマは、迷っている。「もう少し北か、いや西か、その間ぐらいかもしれない」そんな風に、においや景色の記憶を頼りに、シロクマはふるさとの北極へ戻ろうとしている。 半年前、溶け出した氷が決定的な音を立てて割れ、シロクマを乗せたまま海を漂い…

ワンモアタイム

たしかにあの店のラーメンは、もう一度食べたかった。 「自分たちのルーツをたどるツアー」と題し、昔からの男友達三人で、故郷を旅行者気分で回ることにした。「30歳になる前に何かしよう」とグループLINEで盛り上がった話の流れだ。久しぶりに、自分たちが…

EXIT

世界には上り坂と下り坂、どちらが多い? そんななぞなぞがある。どちらも同じ、が正解だ。どちらかから下れば、どちらかからは上ることになるから。入口と出口も同じような関係だろう。どこかに入っては、必ず出て行く、その繰り返し。だけど、僕の人生に限…

君は100%

摘むのは老爺の、選り分けるのは老婆の、食べるのは幼子の役目。それがバレンシアの掟、オレンジ農家の伝統。世界でいちばん青くて高い空の下、その丘の上で、何十年も前の初恋を今に連れて来た風に吹かれ、鼻歌交じりの老爺は脚立にのぼり、ひとつひとつ丁…

瞳の奥をのぞかせて

今は夜です。貴方は仕事が終わった頃かもしれない。お疲れさま。 あの日、貴方が眠ったあと、貴方の背中に文字を書いていました。ネイルをしていなかったことに気付いてくれなかった私の指で。きっと、私がいつも貴方の後に眠りについていたことも知らないの…

アニマロッサ

毎年この時期は、SNSがざわめき、テレビ画面が色めく。去年、部活の先輩たちが派手な着物やドレスの格好の写真をSNSに大量にアップし、ハタチになったことの感想や意気込みや、親への感謝をつづっていたことには少し閉口したし、ニュース映像に映されるどこ…

この胸を、愛を射よ

「歳をとったキューピッドはキューピッドなのか。多くの哲学者たちが挑んでは、その度に議論が紛糾してきた難問です。今回、FGN放送局では、数名のキューピッドのみなさんにお越しいただき、実際にこの問題についての所見をうかがうことに成功しました。どう…

今宵、月が見えずとも

「ごめんな」と言われた。幸せにできなくて、と。 別れ話をした帰りの電車は、どこか舞台めいて見える。人もまばらな23時の電車に、わたしは一番不幸な役を演じるのだろうか。虚ろな目でスマホの画面を追っているわたしの斜め前のサラリーマンは、こんな風に…

Love, too Death, too

「世界中の富を集中させた1930年代のアメリカに、こんな牧歌的な風景が広がっているとはね」と、イギリスからやってくる彼女の親族がよく言ったものだ。 一面に広がる草原の中で、数頭の馬と羊が草を食み、チチチと鳥が鳴き交わす声以外には、シロツメクサを…

ギフト

この時期は本当に忙しい。店内にはオルゴールのクリスマスソングが流れ、フロアのあちこちにクリスマスツリーが飾り付けられるこのシーズン。はじめの数日は新鮮味があって少し気持ちが浮き立ったサンタ帽も、何週間もつけていると飽き飽きしてくる。心なし…

痛い立ち位置

金の万年筆を片手に、金縁の眼鏡をかけた水田社長は、社長室で全盛期比40%の頭髪を撫でながら「参ったな」と呟いた。そこに軽やかなノックの音が聞こえ、横田秘書が部屋へ入ってきた。 「失礼します、社長。先月我が社がリリースいたしました新車種について…

あなたがここにいたら

「ねえ、もう少しだけ話してもいい?」と彼女は言った。「もう少しだけ声が聞きたいから」そう言いながら、彼女の声は少し眠そうだった。もちろんいいよ、と僕は答えた。それから「でも声が眠そうだけど。明日というか今日の朝も早いんだろ?」と付け足した…

リンク

僕はパソコンを開いて待つ。もうすぐ時間だ。外では聞きなれない声の鳥が、えさを啄ばんでいるのか、せわしく鳴いている。 静かな着信音。僕は受話器のアイコンをクリックして通話に出る。 「もしもーし」ややあって、彼女の声が聞こえてきた。ネット通話の…

Winding Road

茫漠とした砂漠を思わせる国際線のターミナルには、まだそれほど多くの人はいないようだった。 「パスポート持った?航空券も、大丈夫?」僕の右手を握った彼女が問いかける。薄茶色の混じったミドルの髪。左頬にある3mmほどのホクロ。 「大丈夫、完璧」パス…

ハネウマライダー

「笹の葉で一からつくったAI「タケチくん」の調子はどうですか。 今野 2048年元旦」 今野くんから、こんな年賀状が来た。彼は今どこにいるのだろう。 とにかくこのAIについて言えば、調子はいい。この数ヶ月、僕は改めて今野くんの天才性を感じている。タケ…

DON'T CALL ME CRAZY

夢にジャスティン・ビーバーが出てきた。理由はわからない。思い当たる節はない。私は基本的に、彼のことが好きではない。欧米青年の悪い部分を濃縮して具現化させたような感じがする。もっと言えば、彼のことを好きな女性ファンのことがもっと好きではない…

ジョバイロ

わたしがスタバに通うのは、オシャレに見せたいからとか、その空間に酔っているからとか、そういう理由からじゃない。佐山さん―わたしに新作ラテを渡してくれたあの人の笑顔を見てから、わたしはスタバに通うようになった。 もともとわたしは、カフェみたい…

NaNaNaサマーガール

フリルのついた真っ白なビキニを着た彼女が、リビングでソワソワしている。ソファに座り、テレビのリモコンをとってスイッチを入れたかと思うとすぐに消し、手近にあったファッション雑誌を数ページだけめくって放り出し、少し歩きまわって床に落ちているゴ…

ROLL

「Welcome to the Jungle」真紅の蝶ネクタイを締めたレオパードが言った。 「Welcome to the Jungle」続いて、前衛的なステッキを携えたアナコンダが言った。 「Welcome to the Jungle」最後に、遠慮がちなチンパンジーが両手をポケットに突っ込みながら言っ…

ネオメロドラマティック

こいつとずっと一緒にいよう。そう思った高1の春、はじめてケータイを手にした日。ドコモのおねえさんは、「何かございましたら、お気軽に当店にご来店くださいませ」とにっこり笑って、店を出るボクに一礼した。涼やかな風を思わせる青色にコーティングされ…

黄昏ロマンス

タツノオトシゴ的見地から言わせてもらうと、太陽は沈んでいるのではなくて、地球の逆半球に昇っているだけだという考えは正しくない。それはすこぶるヒト的見地である。太陽は実際に沈む。黄金のオレンジに輝く太陽は数時間、地表面を照射してからゆっくり…

シスター

俺が最後のキッカーだ。4―4となったPK戦、5人目の俺が決めて、県大会優勝を決める。思い出せ、真夏の合宿を。山道を走り、日が沈みボールが見えなくなるまで蹴り続けた日々。変わらぬ24人で、ともに飯を食い、意見をたがわせ、スタメンを争い、恋を打ち明け…

ラック

今日は、ユミちゃんが学校をおやすみしている。隣にユミちゃんのいない学校は、家に帰ってから「手洗い・うがい」をせずに食べたおやつみたいな感じがする。 4月から、4年生になってもユミちゃんと同じクラスになれて、ぼくはとってもうれしかった。名字がぜ…

愛が呼ぶほうへ

風はいい。風は自由だ。いつでも、どこにでも行ける。パスポートもいらない。そもそも、風であることに国境はない。好きなとき、好きな場所で吹く。ひとつ誤解を解いておきたいのだけど、風が冷たいとか熱いとか、あれは気温のせいであって、風のせいじゃな…

メリッサ

私はどこかにいる。たしかに、どこかにいる。 視線の先には、光が見える。手を伸ばせば届く距離で、果てしなく遠くで、私を拒むように、待ち望むように、光っている。 私を呼ぶ声が聞こえる。 光の先で、誰かが私を呼んでいる。いや、上から。いや、私の中か…

音のない森

声が届かない。姿が映らない。存在が認められない。ぼくは学校が楽しくない。 ぼくがいけなかったんだろうか。中学生になれば、小学生のときよりも勉強が難しくなる。部活もハードになる。ぼくみたいな才能のない人間は、コツコツ努力をしないと夢や目標に近…

夕方からのホームパーティー、というほどオシャレなものではきっとないけど、うちに彼が来るというんだから、きちんと掃除はしておきたい。特に水まわり。「ココで差がつく」とお昼の情報番組で言っていた。キッチンと、別に何を期待しているわけではないけ…

Mugen

JFK。ジョン・F・ケネディ空港。俺とマヤとユウキは、アメリカに降り立った。 「うわー、マジで来たって感じだな。アメリカ」 「それな!はい、写真写真~。ここWi-Fi通ってるよね?」 撮影隊長のマヤが、上陸後最初の写真を早速SNSにあげている。数秒後には…

幸せについて本気出して考えてみた

僕が父から教わったこと。人は、自身の幸福を求めて生きるのだということ。人生とは、いわば自分だけの幸福を求める旅なのだということ。その幸福は、他者との分かちがたい掟と絆によって固く保障されねばならず、それは神の庇護によってのみ成立するという…

ヴォイス

10年も美容師をやっていると、声を聞くだけでなじみのお客さんの調子が何となくわかる。具体的に、どこがどんな風に違うのかと問われても、それはとても感覚的なものだし、説明しようとしてもその違和感の箇所は人それぞれ違うから、一概に答えることはでき…

アゲハ蝶

チューリップだって、キスをしたい。 5月のある日、昼下がり。僕は唐突にそう思った。都心から車で40分ほどの場所にある自然公園。見渡せばたくさんの花。自分と同じチューリップたちが、我こそはと咲き誇る。黄色や赤色のチューリップは、真っ白な僕よりも…

サボテン

「ねえ~、ヒマ~。この渋滞どうにかなんないの~?」 「野田から東が丘まで10km渋滞だってさ。こりゃしばらくかかるな」 「なんでこんなとこで渋滞するのよ~。ねえ~、ヒマ~、つまんない~」 「イライラすんなよ。ほら、チョコやるからさベイベ」 「べつ…

サウダージ

「しまった、ポン酢がない」 冷蔵庫をのぞきながら、そうつぶやく。底冷えの日曜日。寒くなると事前の天気予報でわかっていたから、昨日のうちに買い物を済ませておいた。無論、こんな寒い日に、外に出なくてもいいように。予定では、あたたかなコタツに入り…

ミュージック・アワー

目覚まし時計を使わなくなったのは、大学生になってからだ。スケジュールもアラームも、iPhoneがあればいい。朝6時半、「ゆらぎ」で目覚めたわたしは、まずPCを起動させて、Spotifyを開く。忙しい朝、少しだけ優雅な気分にさせてくれるプレイリスト。ときど…

ヒトリノ夜

ひとりの夜に何をしているか。 これはその人の人格をよく表すと思う。本棚は人なり。宵もまた、人なり。 だからわたしは、めぼしい男の子を見つけると、その人と本当に付き合いたいかどうか判断するときに、必ずこう聞く。 「ひとりの夜には、何をしてるの?…

アポロ

アポロは猫だ。わたしの猫。 わたしの猫は「アー」と鳴く。少なくともわたしには、「アー」としか聞こえない。上品なグレー地に、額からはシュッシュッと滑らかで鋭い黒色のラインが入った毛を忍ばせて。彼は機嫌が良いのか悪いのか、時折わたしを見ては「ア…

その5‐7(ザグレブ、ブダペスト)

ザグレブ観光。国際列車でブダペストに戻る。

その5‐6(ザグレブ)

ザグレブ観光。市内中心部。

その5‐5(スプリト、ザグレブ)

スプリト観光、Marjan。スプリトから長距離バスでザグレブへ。

その5‐4(ドブロヴニク、スプリト)

ドブロヴニク観光、スプリト観光。スプリトのディオクレティアヌス宮殿前で新年を迎える。

その5‐3(ドブロヴニク)

ドブロヴニク観光。ドブロヴニクからバスでスプリトへ。

その5‐2(ドブロヴニク)

ドブロヴニク観光。旧市街および城壁。

その5‐1(ブダペスト、ザグレブ)

クロアチア観光。ブダペストから電車でザグレブへ。