月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

ポルノグラフィティシングルタイトル800字小説

ROLL

「Welcome to the Jungle」真紅の蝶ネクタイを締めたレオパードが言った。 「Welcome to the Jungle」続いて、前衛的なステッキを携えたアナコンダが言った。 「Welcome to the Jungle」最後に、遠慮がちなチンパンジーが両手をポケットに突っ込みながら言っ…

ネオメロドラマティック

こいつとずっと一緒にいよう。そう思った高1の春、はじめてケータイを手にした日。ドコモのおねえさんは、「何かございましたら、お気軽に当店にご来店くださいませ」とにっこり笑って、店を出るボクに一礼した。涼やかな風を思わせる青色にコーティングされ…

黄昏ロマンス

タツノオトシゴ的見地から言わせてもらうと、太陽は沈んでいるのではなくて、地球の逆半球に昇っているだけだという考えは正しくない。それはすこぶるヒト的見地である。太陽は実際に沈む。黄金のオレンジに輝く太陽は数時間、地表面を照射してからゆっくり…

シスター

俺が最後のキッカーだ。4―4となったPK戦、5人目の俺が決めて、県大会優勝を決める。思い出せ、真夏の合宿を。山道を走り、日が沈みボールが見えなくなるまで蹴り続けた日々。変わらぬ24人で、ともに飯を食い、意見をたがわせ、スタメンを争い、恋を打ち明け…

ラック

今日は、ユミちゃんが学校をおやすみしている。隣にユミちゃんのいない学校は、家に帰ってから「手洗い・うがい」をせずに食べたおやつみたいな感じがする。 4月から、4年生になってもユミちゃんと同じクラスになれて、ぼくはとってもうれしかった。名字がぜ…

愛が呼ぶほうへ

風はいい。風は自由だ。いつでも、どこにでも行ける。パスポートもいらない。そもそも、風であることに国境はない。好きなとき、好きな場所で吹く。ひとつ誤解を解いておきたいのだけど、風が冷たいとか熱いとか、あれは気温のせいであって、風のせいじゃな…

メリッサ

私はどこかにいる。たしかに、どこかにいる。 視線の先には、光が見える。手を伸ばせば届く距離で、果てしなく遠くで、私を拒むように、待ち望むように、光っている。 私を呼ぶ声が聞こえる。 光の先で、誰かが私を呼んでいる。いや、上から。いや、私の中か…

音のない森

声が届かない。姿が映らない。存在が認められない。ぼくは学校が楽しくない。 ぼくがいけなかったんだろうか。中学生になれば、小学生のときよりも勉強が難しくなる。部活もハードになる。ぼくみたいな才能のない人間は、コツコツ努力をしないと夢や目標に近…

夕方からのホームパーティー、というほどオシャレなものではきっとないけど、うちに彼が来るというんだから、きちんと掃除はしておきたい。特に水まわり。「ココで差がつく」とお昼の情報番組で言っていた。キッチンと、別に何を期待しているわけではないけ…

Mugen

JFK。ジョン・F・ケネディ空港。俺とマヤとユウキは、アメリカに降り立った。 「うわー、マジで来たって感じだな。アメリカ」 「それな!はい、写真写真~。ここWi-Fi通ってるよね?」 撮影隊長のマヤが、上陸後最初の写真を早速SNSにあげている。数秒後には…

幸せについて本気出して考えてみた

僕が父から教わったこと。人は、自身の幸福を求めて生きるのだということ。人生とは、いわば自分だけの幸福を求める旅なのだということ。その幸福は、他者との分かちがたい掟と絆によって固く保障されねばならず、それは神の庇護によってのみ成立するという…

ヴォイス

10年も美容師をやっていると、声を聞くだけでなじみのお客さんの調子が何となくわかる。具体的に、どこがどんな風に違うのかと問われても、それはとても感覚的なものだし、説明しようとしてもその違和感の箇所は人それぞれ違うから、一概に答えることはでき…

アゲハ蝶

チューリップだって、キスをしたい。 5月のある日、昼下がり。僕は唐突にそう思った。都心から車で40分ほどの場所にある自然公園。見渡せばたくさんの花。自分と同じチューリップたちが、我こそはと咲き誇る。黄色や赤色のチューリップは、真っ白な僕よりも…

サボテン

「ねえ~、ヒマ~。この渋滞どうにかなんないの~?」 「野田から東が丘まで10km渋滞だってさ。こりゃしばらくかかるな」 「なんでこんなとこで渋滞するのよ~。ねえ~、ヒマ~、つまんない~」 「イライラすんなよ。ほら、チョコやるからさベイベ」 「べつ…

サウダージ

「しまった、ポン酢がない」 冷蔵庫をのぞきながら、そうつぶやく。底冷えの日曜日。寒くなると事前の天気予報でわかっていたから、昨日のうちに買い物を済ませておいた。無論、こんな寒い日に、外に出なくてもいいように。予定では、あたたかなコタツに入り…

ミュージック・アワー

目覚まし時計を使わなくなったのは、大学生になってからだ。スケジュールもアラームも、iPhoneがあればいい。朝6時半、「ゆらぎ」で目覚めたわたしは、まずPCを起動させて、Spotifyを開く。忙しい朝、少しだけ優雅な気分にさせてくれるプレイリスト。ときど…

ヒトリノ夜

ひとりの夜に何をしているか。 これはその人の人格をよく表すと思う。本棚は人なり。宵もまた、人なり。 だからわたしは、めぼしい男の子を見つけると、その人と本当に付き合いたいかどうか判断するときに、必ずこう聞く。 「ひとりの夜には、何をしてるの?…

アポロ

アポロは猫だ。わたしの猫。 わたしの猫は「アー」と鳴く。少なくともわたしには、「アー」としか聞こえない。上品なグレー地に、額からはシュッシュッと滑らかで鋭い黒色のラインが入った毛を忍ばせて。彼は機嫌が良いのか悪いのか、時折わたしを見ては「ア…