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月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

その2-1(大阪、インチョン、ロンドン)

イギリス旅行。ロンドンとエディンバラに1週間程度で滞在することは決めていたが、どこを訪ねるかはある程度しぼりこむ必要があった。

入出国の日と、ロンドンからエディンバラへの移動日はほとんど観光に当てられないから実質の観光日は4、5日だ。エディンバラへは、現地の大学院で勉強している高校時代の恩師を訪ねる目的だし、観光については委ねさせてもらおう。さて、ロンドンだ。私と友人でリストアップしたのはザッとこれぐらいである。

 

グリニッジ天文台、バッキンガム宮殿、ウエストミンスター宮殿、大英博物館、キングス・クロス駅、時計台(ビッグベン)、カティ・サーク号、トラファルガー広場、ケンジントン宮殿、ウェンブリースタジアム、エミレーツスタジアム、ホワイト・ハート・レーンスタジアム、スタンフォード・ブリッジスタジアム、パディントン駅、湖水地方、ロンドンアイ、ストーンヘンジ

 

中盤に名を連ねるスタジアムはすべてサッカースタジアムである。ふたりともサッカーが大好きであり、そもそも知り合ったきっかけもサッカーであるから、サッカーの母国イングランドのスタジアムツアーを外してロンドン観光も何もありはしない。となれば、当然だが時間の多くはサッカー観光に費やされる。ゆえに、ロンドンおよびイギリス各地の名所のうちで「どれをはずすか」という話し合いがなされることになった。

 

結局、カティ・サーク号とケンジントン宮殿は、よく知らなかったので却下。ピーターラビットの湖水地方も魅力的だったが、立地面から落選。ロンドンはブリテン島南部、エディンバラは北東部、湖水地方は中西部にあるが、湖水地方に寄るには金銭面、時間面両方で無理が出てしまうのだ。ストーンヘンジも、少し遠いので選に漏れた。

私は高校時代に世界史の授業がとても好きだったが、友人はサッカースタジアムを見られればそれで、という感じなので私が割と自由にロンドン市内の行きたいところリストを作成することができた。複数人旅行だと、金銭感覚、趣味がある程度合っていないとかなり楽しくないだろうと思う。

 

イギリスはコンパクトながら名所にあふれている。サッカー好きならば、ロンドンだけでなくマンチェスター、リバプールにもぜひ行ってみたい。リバプールは伝説のロックバンドThe Beatles発祥の地でもあるし、音楽好きにも楽しいだろう。

東海岸沿いの都市ヨークは、中世に北欧海賊ヴァイキングの影響を大きく受け、現在はヴァイキング博物館があると聞く。これほど観光の魅力に満ちているところだ、また来ることがあるだろうと考えて、今回行けない場所についても悲観的に考えないようにした。出発したのは2013年8月下旬のことであり、イギリスでは7月にロイヤルベビーが誕生した。いよいよ良いタイミングでイギリス旅行ということになりそうだ。

 

理由はわからないが、一睡もできないまま出国の日を迎えた。ツアーだった前回と違い、全て自分たちで行わなければならないという緊張や、初めての海外旅行である友人の先導者として振舞わねば、という不必要な責任感もあったのかもしれない。

とにかく、関西国際空港で落ち合い、通貨の両替をしてその手際のよさに再度感心してから飛行機に乗り込んだ。今回はアシアナ航空である。安かった。いや、もっと安い会社もあるが、乗継にやたら時間がかかるので、海外ビギナーふたりには危険だという判断で、時間、費用合わせて総合的に安いこの会社にしたのだ。

まずは2時間弱でソウルの仁川(インチョン)空港に着く。男性のCAさんを見たのはこのときが初めてだった。

韓国の飛行機や空港はキムチのにおいがする、というのはどこからともなく聞いたことがあるが、全然そんなことはなかった。お言葉だが、時代が違うといったところだろうか。そんなことより驚いたのはその大きさである。とにかく大きい。アジア最大といわれるこの仁川空港は地上4~5階はあろうかと思われ、搭乗ゲートもたくさんありそうだ。

免税店や飲食店はもちろん、マッサージ、リラックスルームやフリーインターネットなど、様々な施設がある。いすやソファもあって、みんなそこでものすごく無防備に寝ている。当時は乗り継ぎ待ちだと思っていたが、もちろんそれもあるだろうが宿代を浮かしたいものや、そのために膨大な乗継時間を必要とする貧乏旅行者たちだったかもしれない。というのも、このインチョン空港は、とあるサイトで「世界で最も快適に泊まれる空港」に輝いていたからだ。そういうことを知っているということは、後々に私ももうちょっとでそんなことをしようと思っていたということの現れである。

空港内で、民族衣装を着た大名行列みたいなことをやっていた。みんな写真をバシバシ撮っていたが、私は何となくそれが嫌だったので黙って見ていた。でも、見世物として行われている行列なんだから写真の1枚ぐらい撮っておけばよかったかもしれない。だが、あんなにバッシバシ撮る必要もあるまいよ。

空港職員さん、特にCAさんの平均レベルが高いと感じた。そんな美意識高めのCAさんたち4、5人が小さな机で狭そうに向かい合って食事をしているところはおもしろかった。別に混んでいるわけではないのだから、もっとゆったり使えばいいのに。

 

4時間程度を空港で過ごし、いよいよ本丸ロンドンへ向かう。アシアナ航空のCAさんはきれいだったが、機内食がおいしくなかった。一食に一品は辛い味付けのメニューが出るが、そこにはうまみやコクといったものがなく、ただピリピリするだけ。ごはんも進まなければ単品でも楽しめない。安さの秘密だろうか。

 

12時間のフライトを終え、ヒースロー空港だ。2度目のフライトとあって、今回は機内での出来事に紙面を割かなくて済んだ。トイレに2度も驚くやわな私ではないのだ。流すスイッチを押した瞬間に耳に手を当てる技を会得した。

どうでもよい。ヒースロー空港に着き、地下鉄に乗ってHammersmith駅まで行く。まずは切符売り場でOysterというデポジット式の切符(日本でいうSuicaやIcoca)を買う。また、Tube Mapという地下鉄路線図ももらっておく。ここの地下鉄は車体の天井が丸く、チューブのように見えるからそう呼ばれるらしい。天井が丸いから低いように思う。そのためか、車内が何となく狭く感じる。

地下鉄といっても、途中からは地上に出る。20時過ぎでもまだ少し明るい。駅間が結構長いなと思いながら、空港から10個目ぐらいにHammersmithはある。

外はひんやりと、ちょうどよく涼しかった。ヨーロッパの夏は初めてだ。昼はどれぐらいまで気温が上がるのだろう、湿度も低くて快適なのだろうか。いやいや、ロンドンは曇ってばかりだと聞く、あまり期待してはいけないなと銘じて、少し迷いかけながらも駅から10分ぐらいのホテルで無事、チェックインすることができた。

 

翌朝、「しまった!」と思って飛び起きた。

このホテルでは、朝食を部屋まで持ってきてもらうことができる。「紅茶がいいか、コーヒーがいいか」、「サラダがいいか、果物がいいか」のような質問にチェックをつけて、希望時間帯にもチェックをつけて、その札を扉にかけておくのだ。

そのサービスの人が何度も何度も扉をノックしている。私も初めのほうは夢半ばでそのノックを聞いていたから、実際何分ノックさせたかわからない。サービスの人はノックのしすぎで腱鞘炎になっているかもしれない。申し訳ないことをした。

あわてて扉を開けて、朝食を持ってきてくれた彼女を中に入れる。もうひとりの友人は今頃になってやっと起きてきたが、きちんと朝食を運ぶのを手伝っていた。私は半分寝たまま適当に財布からコインを抜いてチップを渡した。待たせたのだ、少しぐらい相場より高くてもかまわないだろう。

それにしても、時間には正確なふたりが寝坊とは、自分たちでは気づかなくとも、前日のフライトや地下鉄、ホテルへの道筋など、初めてづくしに疲れが溜まっていたのだなと思いながら何気なく時計を見ると、まだ6時55分である。私たちは7時から7時半、と希望を書いておいた。どうせヨーロッパのことだから7時に目覚ましを鳴らして、それでは起きずにスヌーズでようやくのそのそ起き出して、洗面を済ませていればちょうどいいぐらいだろうと思っていたのだ。それを7時前にたたき起こされた!

じゃあ言わせてもらうが、私たちは初めての自分たちだけの海外旅行にいささか緊張しているし、昨日はホテルのベッドに倒れこむと、その身が抱えた一日分の疲労をひしひしと感じた。それをたたき起こすなんて!しかもチップをいくら払ったか覚えていない!これで、私たちをたたき起こした彼女が法外なチップにニヤつき、翌日はさらに早い時間に私たちをたたき起こすことにでもなれば、それはもうケンカするしかない。英語なんか話してやらない、日本語でまくし立ててやるしかない。

ただ、良くも悪くも目を覚まさざるを得なかった私たちは朝食をのそのそ食べ始めた。のそのそは起きたときで、朝食はシャキッと食べたかったのに、なんだか反対で少し悲しい。朝食はパン、シリアル、ジュース、ヨーグルト、紅茶だった。無難においしかった。