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月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

その4‐1(ヨーテボリ、フランクフルト、パリ)

パリは都会だった。人を華やがせ、輝かせる空気があった。

 

10月25日から1週間のフランス旅行に向かう。

スウェーデンの空港を出て、ドイツのフランクフルト空港経由でパリのシャルル・ド・ゴール空港まで行く。

スウェーデンからフランクフルト空港へ向かう機内で、私の隣にはまだ幼い姉妹がふたりだけで座っていた。姉のほうは本を読んだり音楽を聴いたりして静かにしていたが、妹はニンテンドーDSをしていた。たぶんあれは3DSだと思う。時々見える画面上にはアバターが映っており、『ともだちコレクション』あたりのゲームをしているのだと私は推測した。

「それ、うちの国の会社が作ったんやで」と言ってやりたかったが、年下だったこともあり勘弁してあげた。

 

フランクフルト空港に着陸する。どこまでが空港の土地なのか検討もつかないほど敷地が広い。飛行機を降りると、ターミナルまで送ってくれるリムジンバスに乗り込むのだが、このバスもその広い空港内を果てしなく走る。同じようなバスも走り、貨物車も走り、飛行機も走る空港内を譲ったり停まったり進んだりしながら、トイレを我慢している人はアウトだろうなといらぬ心配をしてしまうぐらい長い時間走った挙句にようやくターミナルビルに入っていくことができる。

バスはターミナルビルの下も通るのだが、そこは大阪梅田の阪急バス乗り場を思い出させる猥雑さである。低い天井にはおびただしい量のケーブルが走っており、このひとつの施設にどれだけの情報とエネルギーが供給されているのだろうと、今さらながら現代社会が怖くなった。

ここで4時間の乗り継ぎ待ちだが、予想外に特に何もすることがないところだった。建物自体は広くて移動に時間はかかるのだが、中にはレストランがいくつか入っているぐらいで、食費を倹約したい私はそんな場所に入ることはできず、パン屋さんでプレッツェルともうあと二つぐらいパンを買ってしまってそれをゆっくり食べたところで、時間はかなり余った。この年の夏にはドイツがサッカーワールドカップで優勝したのだし、何かそれに関連のあるものがあるんじゃないかと思ったが、一軒のキオスクにサッカードイツ代表の2015年オフィシャルカレンダーが売っているぐらいだった。

飛行機に乗るということは、空港内を移動するということや慣れない環境でも的確な行動をとるということと同義であり、意外と疲れる。座っているのも疲れるし歩くのもしんどい。私は、歩いたり座ったり座って本を読んだりということを脈絡なく繰り返して時間をつぶした。そして4、50分前には搭乗ゲート近くの椅子に座って待機していた。

20分前。最後に念のために搭乗ゲートを確認しておこうと思って搭乗案内板を見ると、搭乗ゲートが変更になっている。私が目を離したわずか20分程度の間に、誰が誰の許可をとったのか知らないが新しい搭乗ゲートは37番になっていた。今いるのは5番ゲートである。

私は少し走った。先にも述べたとおり、ここには際立っておもしろい店舗が入っているわけではないが建物自体は広くて移動には骨が折れる。

ビル内を小走りし、動く歩道を駆使し、思っていたよりももっと遠かった新しい搭乗ゲート37に何とか到着した。私がチケットを通していると、後ろからものすごい勢いで女の子が走ってきた。彼女も直前で搭乗ゲートの変更を知ったのだろう。

私がチケットを通し終え、機内へと続く廊下を歩いていると彼女もゼーゼー息を切らしながら私の後ろについた。本当に、ぶっ倒れるんじゃないかというぐらい彼女は全力で息を切らしており、「大丈夫? すごく走ってきたんだね」と私が英語で尋ねても、彼女は壁に手をついてただ笑い返すのが精一杯だった(英語が分からなかったという可能性もあるにはある)。

 

そんな罪作りな飛行機も無事にパリまで飛んだ。私は窓側に座っていたのだが、パリに近づくとその一帯は光に満ちており、パリが近づいてきましたというアナウンスはないものの、これがパリだとわかるほどだった。

パリはまず空港内にさえパリを感じさせる。飛行機を降り、歩いてターミナルを移動するのだが、シルク・ドゥ・ソレイユみたいな何だか豪勢な音楽に迎えられながら動く歩道に乗るのだ。ターミナル内のいたるところで動く歩道を囲う透明なパイプが交差しており、ここも大きな空港であることがうかがえる。

手荷物も無事に流れてきた。ここからはロワシーバスという有料のリムジンバスに乗って、ひとまずパリのオペラ座まで連れて行ってもらう。先に申し上げるが、現在時刻は午後10時半である。安い航空券を買おうと思うと、どうしてもこうなる。だから観光目的ではなく、完全に移動だけのためにオペラ座まで連れて行ってもらうのだ。

ロワシーバス乗り場はすんなりと見つかり、発券機で切符を買って少し待った。壁にはロワシーバスの説明書きが貼ってある。「15~20分おきに発車」と仏・英・伊・日語で書かれていたが、発券機で表示できる言語は仏・英・独・西語である。よくわからない。

バスは30分弱でオペラ座に着いた。この時間だと交通量もさほど多くないのだ。混んでいるときだと4、50分かかるという。とはいえ、23時にこれだけの交通量というのは日本では当然だとしても、現在留学中のスウェーデンでは絶対にありえない。改めてパリは都会なのだと感じた。

車窓越しに夜の街を見ていても、やっぱり1年半前のブダペスト初日のように何が何かわからないが、サッカーフランス代表のホームスタジアムであるスタッド・ド・フランスが見えたのはたしかだった。

市内中心地に入ると道が石畳になっており、見栄えは良いのだろうが大変ガタガタする。5分ほどのガタガタを乗り越え、ついに私はパリの街に降り立った。