月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

Mugen

JFK。ジョン・F・ケネディ空港。俺とマヤとユウキは、アメリカに降り立った。

「うわー、マジで来たって感じだな。アメリカ」

「それな!はい、写真写真~。ここWi-Fi通ってるよね?」

撮影隊長のマヤが、上陸後最初の写真を早速SNSにあげている。数秒後には、日程の都合上来ることができなかった仲良し5人組最後のひとり、サナエがコメントを残している。「いいな~NY。わたしのぶんまでカズを応援してね!」

2日間のNY観光の後、俺たちは本当の目的、カズが参加するフードファイター世界選手権の応援に行くためにシカゴへと移動した。

際立った体格の持ち主というわけではなく、その割に普通の人よりはよく食べるかな、といった程度のみんなの認識が一変したのは、件の5人で九州旅行に行ったとき、冗談で頼んだ12人前チャーハンをカズひとりで完食してしまったときだった。「まだ8割かな」と言いつつ、自分でも驚いていたカズの才能。いつの間にか、日本代表として大食いの本場アメリカの門をたたくようになった。

時差調整のため数日前に入国していたカズは、笑顔で俺たちを迎えてくれた。

「いや~がんばるわ~」

物腰の柔らかな言い方と、その裏に隠された決意を俺たちは知っている。そして始まったその戦いは、ただ食べているだけとは表現できない迫力に満ちたものだった。

世界各国から集まった巨漢たちと並んで、無数に積み上げられたハンバーガーに食らいつくカズ。その隣に、カズの倍ほどもあろうかという大きさの口でハンバーガーを丸呑みにしていく化け物がいる。あんなヤツに、勝てやしない。俺たちは思った。カズも薄々気付いていただろう。それでも必死に食らいつく。食べるという行為を通して、本当はファイター同士で殴り合っているようだった。

20人中13位。カズと3人で写真を撮る。悔しさをにじませたその顔と、それを囲む俺たちに、サナエは「超いいね」を押していた。