月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

ネオメロドラマティック

こいつとずっと一緒にいよう。そう思った高1の春、はじめてケータイを手にした日。ドコモのおねえさんは、「何かございましたら、お気軽に当店にご来店くださいませ」とにっこり笑って、店を出るボクに一礼した。涼やかな風を思わせる青色にコーティングされたP-01Aはボクの手の中に収まり、少しよそよそしく、また未来に胸を高鳴らせているように見えた。

たしかにそれから、機種を変えることはあった。今やボクはスマホユーザーだ。そして、ボクの青春を支えた青色のP-01Aは、机の引き出しの奥に眠っている。だけど、変えるのは機種だけのはずだった。ボクのために笑顔を見せてくれた、いつかのドコモショップのおねえさんに誓って・・・。

 

「ただいま乗り換え割のキャンペーンを行なっておりまして、本日ご契約いただきますと、機種代が実質無料となります。いかがですか?」auのおねえさんは、オレンジを基調とした制服に身を包み、ボクに微笑みかける。ボクは「はい、おねがいします」と答える。ボクが契約内容を承諾したことにより、一気に忙しくなったauのおねえさんは、パソコンに何やらカタカタと打ち込み、液晶を確認し、クリックし、また何かカタカタと打ち込んでいる。ボクはそれをぼんやり眺めながら「終わったな」と思った。

仕方ないじゃないか。学生にとって、月々のケータイ使用料が500円安くなるかどうかは重要だ。高いほうから安いほうに移る。当然のことだ。

だけど、と思う。

ボクの、はじめてのおねえさんの泣いている顔が見える。「わたしじゃ足りないのね」と泣いている。いや、優しいおねえさんだから「いいのよ、気にしないで」と力なく笑うかもしれない。ボクはおねえさんの悲しむ顔を見たくない。「ちがうんだ」と言いたい。

だけど、何が「ちがう」のだろう。

結局、何もちがわない。ドコモのおねえさんとの関係を終えて、auのおねえさんと関係を始める。それだけだ。