月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

音のない森

声が届かない。姿が映らない。存在が認められない。ぼくは学校が楽しくない。

ぼくがいけなかったんだろうか。中学生になれば、小学生のときよりも勉強が難しくなる。部活もハードになる。ぼくみたいな才能のない人間は、コツコツ努力をしないと夢や目標に近づけない。そんなことはみんなわかっているはずだ。だからぼくは、変わろうと思った。

宿題はちゃんとする、授業中になるべく手を挙げる、部活の走り込みを人より多くする。先生たちはそんなぼくをちゃんと見てくれていて、5月の三者面談ではぼくの態度を褒めてくれた。「他の生徒よりも、中学生としての自覚があります」。

小学生じゃないんだから、宿題を忘れた友人に写させてあげることが彼のためにはならないと理解したし、平日が忙しい分、休日に勉強の予習や復習をしなくてはいけない。だから遊べる時間なんてほとんどない。そんなこと、みんなわかっているはずだろう。だからぼくは言ったんだ。「俺はこれまでの俺とは違うんだ」って。周りの友だちは変な顔をしていた。友だち、そう思っていたヤツら。友だちなら、友だちを応援するのが筋じゃないのか。

毎日がつらい。どこに行っても、誰とも目があわない。声をかけても、その音はぼくの目の前に落ちていく。いつのまにか問題集には墨汁がぶちまけられ、体操着はプールに浮かんでいる。だけど大人は頼れない。大人なんて、頼れるはずがないじゃないか。

「何がいけないのか」問いかけたい。実際に問いかけた。しかし、ニヤついたヤツらの目の前にぼくの声は落ちていった。床に這いつくばった、ぼくの声。

中学校は義務教育だ、ということはぼくはこの地獄をあと28ヶ月、500回以上続けなくてはいけないのか。乗り切れるだろうか、耐え続けられるだろうか。この終わりが見えない地獄。あるいは、この地獄から今すぐに逃れる方法はあるのかもしれない。

今、ぼくには、その方法はひとつしか思いつかない。