月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

キング&クイーン

日曜だというのに、ケネディは朝早くから吠え立てる。
散歩に連れて行け、そのあとメシを食わせろ。人間の言葉にすれば、およそこんなところだろう。妻は隣で知らぬふりを決めこんでいる。仕方ない。彼女が昨日の夜、正確には今日が始まったばかりの頃に、突然駆り出された仕事からクタクタになって帰って来たことを、僕は知っている。

僕はのそのそと起き上がり、枕元に準備しておいたマフラーとニット帽を持って、ケネディの待つ庭へ歩いていった。寝室を出るときに振り返ると、妻は右腕だけ出して、僕に向かって親指を突き立てていた。グッジョブ、あるいはグッドラック。僕は心の中でグッドナイトと言い、ケネディとの散歩に出かける。

冬の朝は寒い。散歩の時間があと一時間遅ければ、僕もたっぷり眠れるし、気温も少しは上がっているだろう。だけど、ケネディは我が家の王様なのだ。ケネディにとっての夜明けは、北半球の夜明けに等しい。いつもの散歩コースをたっぷり30分かけて歩く。道端に見かける雪の積もった柊は、冬の朝の鋭い寒さを適切に表している。

散歩から帰ってケネディの食事を用意してやると、僕のためだけの時間が少しだけ与えられる。僕はその時間、紅茶を飲みながらNHKニュースを見る。朝の民放は騒々しくて、ついていけない。

食事を終えたケネディの食器を片付けると、朝食の準備だ。炊飯器にお米をセットし、簡単なみそ汁をつくる。それと今日は、カレイの干物でいいだろう。

商店街のくじ引きで当たったコシヒカリ。新米はやっぱり違うねとふたりで感動していた。人はこれを、ささやかな幸せと呼ぶ。みそ汁の具には、大根とじゃがいもとワカメを入れよう。シンプルなおみそ汁が好き、と妻は言う。僕もそうだ。だから結婚したようなものだ。カレイの干物は、妻が起きてきてから焼きはじめればじゅうぶんだろう。

ごはんの炊ける優しい蒸気が家を包み込む頃、きっと我が家の女王様も起きてくる。