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月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

ハネウマライダー

「笹の葉で一からつくったAI「タケチくん」の調子はどうですか。 今野 2048年元旦」

今野くんから、こんな年賀状が来た。彼は今どこにいるのだろう。

とにかくこのAIについて言えば、調子はいい。この数ヶ月、僕は改めて今野くんの天才性を感じている。タケチくんは賢すぎる。笹の葉をクルクルと巻いただけに見えるこのガジェットのどこに高度な知能が埋め込まれているのか、僕には見当もつかないが、話しかけるだけで何でもしてくれる。部屋の温度調整や照明のオンオフや、ニュースサイトの検索や天気予報や、服のアイロンがけや掃除まで、本当に何でもしてくれる。素晴らしい。しかし、これが賢すぎることを、強調してしすぎることはないと思う。

真夏のある日、家に帰ってきたら、部屋で暖房がついていることがあった。何かの誤作動だったのだろう。僕はその日とても疲れていたから、冷房のきいた部屋を期待しながらクタクタになって帰ってきて、部屋に暖房がついていたことに関してタケチくんを罵倒した。すると、それから数日間のタケチくんは大変だった。ロシアの大統領が暗殺されたなんていう嘘のニュースを伝えて僕に会社で大恥をかかせ、意中の彼女を射止めるためのレストラン選びに使った食べログのレビューを捏造して、内装も接客も味もひどいレストランを勧めて散々なデートにさせ、先日の謝罪と、タケチくんの日ごろの献身への感謝の気持ちをとくと聞かせてやっと、でたらめを言わなくなった。

AI黎明期には、0と1の間の情念を機械にも理解させることが取り沙汰されたが、実際に濃淡様々なグレーゾーンが機械にも適用されると、非常に厄介だ。利害や観念のやりとりは人間同士だけでじゅうぶんなのに、家に帰って機械にまで機嫌をとらなくてはいけないなんて。マシンは言われたことだけやっていればいいのだ。少なくとも、この先もタケチくんと一緒にやっていけるか、僕には少なからぬ不安がある。