月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

EXIT

世界には上り坂と下り坂、どちらが多い?

そんななぞなぞがある。どちらも同じ、が正解だ。どちらかから下れば、どちらかからは上ることになるから。入口と出口も同じような関係だろう。どこかに入っては、必ず出て行く、その繰り返し。
だけど、僕の人生に限って言えば、出て行くもののほうが多い気がする。僕が出て行くのか、それとも出て行かれるのか、それはまだよくわからない。

進学、友人、恋愛、理想、希望、夢・・・。その世界に入っていくときには、「そこ」は必ず光り輝いている。何かが起きるんじゃないか。魔法がかかり、奇跡が起きる。そして、こんな僕をどこか別の場所へ導いてくれるんじゃないかと、胸を高鳴らせたものだ。

だけど、いつの間にか光は失せて、諦めや後悔や挫折や無念だけを残して、僕はそこからいなくなる。後ろを振り返れば、僕の歩んできた軌跡が見える。僕の姿だけがない。目を凝らせば、虹の橋を渡ろうとしたかつての僕がおぼろげに見える。だから僕は、振り返ることをやめた。無残な今の姿と、傷つかないままの僕を並べていることに耐えられないから。

「おまえは生真面目すぎるんだよ」友人からそんな風に言われたこともある。僕は誰かに憧れられたことはない。その代わりに、憧れたこともない。だけど、屈託なく今の連続を楽しみ続けている彼らを見ていると、こんな生き方もあったのかもしれないと思えてくる。そして知らず知らずのうちに、僕はまた、入口だけを避けて、出口を求めて進むようになる。

「君は変わらないね」そんな言葉を何度も聞いた。変わりたいともがき、結局いつも同じ場所に還ってくる人間に、これほど残酷な言葉もないのに。もう振り返っても、俯きがちにため息を漏らす僕の姿しか見えない。何も言えずに立ち尽くす僕の姿しか写らない。

僕が歩んできた、これまでの道はなんだ。自分だけの場所を求めて歩いてきた僕は、どうしても僕自身にしかたどり着けなかった。