月夜の留守番電話

外国旅行記と小説。

アニマロッサ

毎年この時期は、SNSがざわめき、テレビ画面が色めく。去年、部活の先輩たちが派手な着物やドレスの格好の写真をSNSに大量にアップし、ハタチになったことの感想や意気込みや、親への感謝をつづっていたことには少し閉口したし、ニュース映像に映されるどこかの荒れた成人式の様子には、この国の終わりを感じたものだけど、それでも実際に自分がハタチを迎えるとなると、少し感慨深い。「こんな大人に、あんな人になりたい」という思いがこみ上げてくる。わたしは文字が苦手だし、なんとなくの感覚でしかないけれど。

姿見に映る、真っ赤なドレスを着たわたしの姿。がんばって2キロやせたおかげで、2ヶ月前よりも、ドレスのシルエットが美しくわたしの体を形どってくれる。これは大切なドレス。祖母、母、私と受け継がれてきた、アニマロッサという名のドレスだ。
イタリア語で「赤い魂」という意味だと教えてくれた祖母が、かつてわたしほどの年齢だったときにそのドレスを着た写真にも艶やかさがあったが、本物を目の前にし、そして手にしたときに、その色味、質感、徹底的に普遍の美を追及してつくられたそのシルエットに息を呑んだ。わたしにとって、何十年と手入れされ、受け継がれ、ひとりの女性の美を引き出すために存在し続けてきたこのドレスを着るということが、成人になる自分への責任だった。このドレスを着ることの重みと比べれば、市長の話や友人の改まった決意表明や、テレビの大人たちが語るわたしたちへの期待なんて、さほど重要ではなかった。

アニマロッサには、シンプルなパールのネックレスが良いと思う。彼氏も「よく似合うよ」と言って、わたしをゆっくり抱きしめてくれた。弟は、チャイナドレスのコスプレみたいだとからかってきたけれど、何となくその日は一日、落ち着きがなかった。

家の外に出ると、冷たい風がドレス越しに身に凍みた。「いってきます」は、誰に向かって言ったのだろう。